海運ウィークリー 2026年9月10日|スエズ復帰3割とZIM買収の延長戦
2026年9月3日〜9月10日の週は、紅海・スエズ復帰が「宣言」から「実測値」へ移った一週間だった。Maersk は喜望峰回りにしていた貨物の30%超をすでにスエズ経由へ戻したと明らかにし、年内の平常化シナリオが一段と現実味を帯びている。一方で Hapag-Lloyd による ZIM 買収はイスラエル政府から30日の猶予を与えられ、破談でも成立でもない延長戦に入った。運賃はアジア〜欧州で下げ足を速めているが、西アフリカの港では滞船がむしろ悪化しており、この方面のリードタイムは引き続き読みにくい。
今週の要点
- Maersk が喜望峰貨物の30%超をスエズへ戻した。紅海・スエズ復帰の進捗について、初めて定量的な数字が示された。同社はさらなるシフトに向けた条件も整いつつあるとの認識を示している。
- ZIM 買収は「否決」ではなく30日の猶予。9月9日にイスラエル政府8機関が意見を提出し、報道では過半数が反対だったものの、結論は拒否ではなく再提案の機会だった。Hapag-Lloyd とイスラエル系ファンド FIMI は9月末までに改善案を提出する。
- COSCO 本体は「量は増、利益は減」。持株会社 COSCO SHIPPING Holdings の2026年上期決算は、コンテナ取扱量が +8% の1,430万TEU と伸びた一方、純利益は前年同期比 ▼34% の20億ドルにとどまった。
- 西アフリカの滞船は改善せず。アビジャン(コートジボワール)がヤード混雑で窓船最大8日の遅延、復旧計画には6〜7週間を要する見込み。テマ(ガーナ)はクレーン故障で4〜6日、ラゴス(アパパ)は降雨とヤード混雑が続いている。
コンテナ運賃と市況
| 項目 | 水準 | 前週比 |
|---|---|---|
| Drewry WCI 総合指数(40ft) | 4,465ドル | ± 横ばい |
| 上海 → ジェノヴァ | 4,368ドル | ▼ 10% |
| 上海 → ロッテルダム | 4,092ドル | ▼ 5% |
| アビジャン(コートジボワール)窓船遅延 | 最大 8 日 | 悪化 |
| テマ(ガーナ)着岸遅延 | 4〜6 日 | 高止まり |
| ラゴス(アパパ/ナイジェリア)沖待ち | 14〜21 日 | 高止まり |
| Maersk の喜望峰 → スエズ復帰率 | 30% 超 | 進行中 |
総合指数は横ばいだが、内訳は二極化している。トランスパシフィックの上昇がアジア〜欧州の下落を相殺した結果であり、欧州向けだけを見れば上海 → ジェノヴァが1週で ▼10%、上海 → ロッテルダムが ▼5% と下げ足を速めた。地中海向けの下落幅が大きいのは、スエズ復帰によって最も距離が短縮される航路だからである(日本発ロッテルダム航路)。一方で西アフリカの3港はいずれも港側の制約が続いており、アビジャンはヤード混雑、テマはクレーン故障、ラゴスは降雨とヤード混雑がそれぞれ要因とされている。運賃の下落と港の滞船は別々に動く、という構図が今週も変わっていない。
スエズ復帰が進むと、アフリカ向けのスペースはどうなるのか?
Maersk が示した「喜望峰貨物の30%超が戻った」という数字は、裏を返せばまだ7割が喜望峰経由に残っているということでもある。この7割が戻る過程では、これまで長距離の喜望峰ルートに吸収されていた船腹がアジア〜欧州の基幹航路へ再配分される。船が同じ距離を走る回数が増えれば、実質的な供給量は増えて運賃は下がりやすい。実際に今週のアジア〜欧州の下落はその動きを映している。
ただしアフリカ向けの荷主にとっては、運賃低下と引き換えにスペースの読みにくさが増す局面でもある。喜望峰経由で運航されてきた西アフリカ向けのサービスは、船腹配置の見直し対象になりやすいためである。運賃が下がったタイミングだからこそ、ブッキングは早めに押さえ、スペース確保を優先する判断が合理的になる(ブッキングの流れ/航路一覧)。
船社別の動き
MSC動きなし
今週分の新規発表は確認できなかった。前号で伝えた1,000隻到達と創業家の事業承継に続く動きはない。8月24日に発表したスエズ復帰4サービス(Jade・Albatros・Tiger・Himalaya)については、第1陣として投入された船名が判明している(MSC Michel Cappellini、MSC Josefina、MSC Anna、MSC Tina、MSC Beryl の5隻)。黒海・ノヴォロシースク発着の新規ブッキング停止は継続中である。
Maersk動きあり
喜望峰回りにしていた貨物の30%超を、すでにスエズ経由へ戻したと明らかにした。さらなるシフトに向けた条件も整いつつあるとの認識である。Gemini 協調としては ME11(2月)、AE15(7月)、AE19(8月)と構造変更を積み重ねてきた結果にあたる。サーチャージ面では、9月7日からキプロスのトラック輸送に12.5%の燃料サーチャージを適用開始したほか、ブラジル・キプロス・北マケドニアのローカルチャージと内陸燃料サーチャージを9月7日〜10月1日にかけて順次改定する。
CMA CGM動きあり
前号で予告されていた、中国発西アフリカ向けドライコンテナのピークシーズンサーチャージ 300ドル/TEU が、9月8日に予定どおり発効した(積地基準)。9月1日発効の西アフリカ向けリーファー PSS(100ユーロ/TEU、北欧州・バルト・スカンジナビア・西地中海・アドリア発)も継続している。なお、日本発を含む他のアジア発地への同種の割増拡大は、今週時点では確認されていない。
COSCO注視
前号で持ち越しとしていた持株会社 COSCO SHIPPING Holdings 本体の2026年上期決算が判明した。純利益は前年同期比 ▼34% の20億ドル。一方でコンテナ取扱量(COSCO Shipping Lines と OOCL の連結)は +8% の1,430万TEU、コンテナ船事業収入は人民元ベースで +2.4% の1,073億元(約158億ドル)だった。航路別の取扱量は欧州〜極東が +12%(219万TEU)、トランスパシフィックが +10%(263万TEU)、最大航路のアジア域内が +5%(474万TEU)。8月28日発表の子会社 COSCO SHIPPING Ports の上期決算は純利益 +28.5% の2億3,370万ドルだった。
Hapag-Lloyd注視
ZIM 買収の可否を審議するイスラエル政府8機関が9月9日に意見を提出した。報道では過半数が反対だったが、結論は否決ではなく30日の猶予である。Hapag-Lloyd とイスラエル系ファンド FIMI は9月末までに改善提案を提出する。改善案の骨子は、ゴールデンシェアを新会社「ZIM Israel」(ZIM から16隻を切り出し FIMI が保有)へ移すこと、政府承認が必要となる外資保有のしきい値を24%から10%へ引き下げること、FIMI が ZIM Israel 株をイスラエル証券取引所以外に上場しないと確約することの3点とされる。反対の中心は国家安全保障の観点で、ZIM 労組やカッツ国防相らが反発している。ブラジル CADE の本格審査(南米東岸3航路、期限2027年3月末)も並行して継続中である。
ONE動きあり
欧州環境サーチャージ(Europe Environment Surcharge)の第4四半期分を改定した。適用期間は10月1日〜12月31日で、アジア・オセアニア → 欧州が110〜420ドル、欧州 → 北米が62〜228ドル、欧州域内が72〜268ドル。20ft・40ft のドライとリーファーで区分され、全18航路が対象となる。今回から英国発着の全貨物にも適用が拡大された点が変更のポイントである。このほか、9月11日にトランスパシフィック東行き(TPEB)の中国発ピークシーズンサーチャージを改定し、9月15日にはロサンゼルス港 Yusen Terminal(YTI)で揚げる鉄道インターモーダル貨物にリハンドル料を新設する。インド・中東〜東アフリカの IMM/IMD サービスは運用を継続している。
Evergreen動きなし
今週もサーチャージ・サービス改編・決算に関する新規発表はなく、3号連続で動きなしとなった。期間中の公式通知は運航アドバイザリー GAD-026-00(9月7日付)のみで、内容は EVER MATCH 1469-006E のヤンチェン積みスケジュール変更(ETA 9月3日→9月4日、ETD 9月5日→9月6日)であり、荷主の判断に影響する性質のものではない。株価は8月18日に NT$231.5 で配当落ち分を回復している。
HMM動きあり
東アフリカ向け新サービス GIA(Gulf–India–East Africa)の詳細が明らかになった。初便は9月第4週にナバシェバ(インド)を出港し、約2,800TEU 型5隻を投入。寄港順はナバシェバ → ムンドラ(インド)→ ダルエスサラーム(タンザニア)→ モンバサ(ケニア)となる。COSCO Shipping、PIL(シンガポール)、Inter Asia Line(台湾)との4社共同運航で、将来は中東への寄港延伸も構想されている。同社がハブ&スポーク戦略のもとで展開する2本目のアフリカ・フィーダー網にあたる。2030年に向けた船隊計画の下方修正(コンテナ155万→147万TEU、隻数130→166隻)とエネルギー輸送へのシフトも継続している。
Yang Ming動きなし
今週分の新規発表はない。9月2日に発表した Hanwha Ocean 向けの LNG 二元燃料 13,000TEU 型6隻(2028〜2029年竣工)と、HD 現代重工の 15,500TEU 型5隻は、いずれも案件として進行中である。8月18日には台湾3社の株価が揃って上昇し、Yang Ming は5ヶ月ぶりの高値を付けた。
ZIM注視
Hapag-Lloyd による買収の審議は30日の猶予に入った。改善案の提出を受けて再審議される見込みで、提出方針が報じられた際には株価が上昇している。買収が成立した場合、イスラエル関連事業は16隻とともに新会社「ZIM Israel」(FIMI 保有)へ切り出される構造である。労組は反対を継続している。第2四半期決算は調整後 EPS が0.64ドルで市場予想を上回り、売上は前年同期比 +9% の17億8,000万ドルだった。
Wan Hai動きなし
今週分の新規発表はない。上海外高橋造船への8隻追加発注を含め、受注残は50隻・約50万TEU の規模となっている。株価は NT$100 台を回復した。
荷主・フォワーダー向けの実務ポイント
- アビジャン向けは10月中旬まで余裕を見る。コートジボワールのアビジャン港はヤード混雑で窓船が最大8日遅延しており、ターミナルの復旧計画には6〜7週間を要する見込みである。逆算すると10月中旬までは通常運転に戻らない前提で、9〜10月積みの ETA は公称スケジュールに2週間程度の余裕を持たせて買主へ案内したい。
- テマの遅延はクレーン故障という物理要因。ガーナのテマ港は設備障害による着岸遅延が4〜6日続いている。混雑と違って荷動きが落ち着けば解消する類のものではないため、短期での改善は見込みにくい(日本発テマ航路)。
- 滞船が伸びる港ではフリータイム超過のリスクが上がる。沖待ちや着岸待ちが1週間を超える港では、超過保管料・機器留置料が発生する確率が跳ね上がる。起算日の定義と延長交渉は積み前に固めておきたい(デマレージとディテンションの違い/日本発アパパ航路)。
- 西アフリカ向けドライへの割増は、まだ中国発に限られる。CMA CGM の 300ドル/TEU は中国発の設定であり、今週時点で日本発を含む他のアジア発地には及んでいない。ただし前例ができた以上、見積取得時に西アフリカ向け PSS の有無を明示的に確認しておくのが安全である(海上運賃の内訳と付帯費用)。
- 運賃交渉の余地は広がっている。COSCO 本体の決算が示したように、取扱量を伸ばしながら利益を落とす構図が大手で共通している。船社側が数量を取りに行かざるを得ない局面であり、年末から来年にかけての契約交渉では条件を詰めやすい。
- 東アフリカ向けは9月末から選択肢が実際に増える。HMM の GIA が9月第4週に初便を出す。4社共同運航のためスペースは比較的取りやすいとみられるが、2,800TEU 級のフィーダーで起点がインドであるため、日本発は積替えが前提となる。直行便ではない点を納期の前提に織り込んでおきたい(モンバサ/ダルエスサラーム)。
- スエズ復帰の進行はスペース面のリスク要因でもある。Maersk の30%超という数字は、残り7割が戻る余地があることも意味する。船腹がアジア〜欧州へ再配分される過程では喜望峰経由のサービスが見直され得るため、運賃が下がる局面こそ早めのブッキングでスペースを確保しておきたい(ETD・ETA・カットオフの読み方/SOCコンテナ/コンテナ不足への備え)。
来週の注目
- 9月末Hapag-Lloyd/FIMI による ZIM 買収の改善提案の提出。30日猶予の期限であり、その後のイスラエル政府の再審議が最大の分岐点となる。
- 9月第4週HMM の東アフリカ新サービス GIA 初便がナバシェバを出港。実運航の開始にあたる。
- 10/1ONE の欧州環境サーチャージ 第4四半期分が発効。英国発着への適用拡大分を含む。
- 10月中旬アビジャン港の復旧計画(6〜7週間)の進捗。コートジボワール向け ETA の前提を戻せるかの判断材料になる。
- 継続CMA CGM の西アフリカ向けドライ PSS が、日本発を含む他のアジア発地へ拡大しないか。
- 継続Maersk のスエズ復帰率(現在30%超)の進捗。残り7割の戻り方が喜望峰経由のスペースを左右する。
- 継続ブラジル CADE による Hapag-Lloyd × ZIM の審査。期限は2027年3月末。
出典
- Maritime Executive — Hapag-Lloyd gets extension to rework bid for ZIM
- Globes — Hapag-Lloyd, FIMI to submit improved offer for ZIM
- Splash247 — Hapag-Lloyd reshapes ZIM bid to secure Israeli approval
- The Times of Israel — National security concerns over the ZIM sale
- Breakbulk News — Hapag-Lloyd faces Sept 9 test
- The Loadstar — Hapag-Lloyd offers new proposals for ZIM
- Container News — COSCO Shipping Holdings profit falls 34%
- IndexBox — COSCO H1 2026 volumes and profit
- Container News — The return of container shipping to the Red Sea
- Maersk — AE19 trans-Suez structural change
- Container News — Maersk local charges and fuel surcharges
- Container News — CMA CGM Far East to West Africa PSS
- The Guardian (Nigeria) — CMA CGM China–West Africa PSS
- Container News — ONE updates Europe Environment Surcharge for Q4
- ONE — Surcharge updates
- Evergreen — Advisory GAD-026-00(2026年9月7日)
- Logistics Insider — HMM India–East Africa GIA service
- Seoul Economic Daily — HMM East Africa feeder network
- The Korea Times — HMM India–East Africa route
- DCN — World Container Index, 3 September 2026
- Drewry — World Container Index
- Kuehne+Nagel — Port operational updates(2026年9月2〜8日)
- Hapag-Lloyd — Africa operational update
- The Loadstar — MSC schedules more services for Suez transit
- BigGo Finance — 台湾3社の株価動向
本記事は、各社の公表資料および報道をもとに OCEAN FREIGHT JAPAN 編集部がまとめたものです(対象期間:2026年9月3日〜9月10日)。運賃・サーチャージの水準や適用条件は発表後に変更される場合があり、発地・貨物・契約条件によって実際の適用と異なることがあります。実務での適用可否は、必ず各船社の正式タリフおよび見積でご確認ください。