海運ウィークリー 2026年8月27日|スエズ復帰の本格化と主要船社の動き
2026年8月20日〜8月27日の週は、紅海・スエズ経由の復帰が言葉から実務へ移った一週間だった。MSC がアジア〜欧州の4サービスを正式にスエズ経由へ切り替え、Maersk の大型船2隻も8月22日に運河を通航している。喜望峰回りで吸収されていた船腹が戻れば実質的な供給は増え、コンテナ運賃は3週連続の下落となった。一方で黒海ではMSC船がドローン攻撃を受け、Hapag-Lloyd による ZIM 買収は年内クロージングを目標に最終局面へ入っている。運賃が下がる局面ほど、スペースとリスクの読みが実務の勝負どころになる週である。
今週の要点
- スエズ復帰が本格化した。MSC がアジア〜欧州の4サービス(Tiger / Jade / Albatros / Himalaya)を正式にスエズ経由へ切り替え、Maersk の大型船2隻も8月22日に通航した。年内の平常化が現実味を帯びている。
- 運賃は3週連続の下落。喜望峰回りで吸収されていた船腹がスエズ復帰で戻り、実質供給が増える構図である。上海発の欧州向けは小幅安で、来週は横ばいの見込み。
- Hapag-Lloyd × ZIM が最終局面へ。1株35.00ドル・総額約42億ドル。各国独禁当局への届出を完了し、一部では承認を取得済み。年内クロージング目標で、完了すれば世界5位が確定する。
- 黒海でドローン被弾、ブッキング停止。MSC の自社船「MSC ULSAN III」が攻撃を受け、MSC はノヴォロシースク発着の新規ブッキングを即時停止した。戦争リスク保険料への波及に注意が要る。
コンテナ運賃と市況
| 項目 | 水準 | 前週比 |
|---|---|---|
| 上海 → ジェノヴァ | 4,955ドル | ▼ 2% |
| 上海 → ロッテルダム | 4,401ドル | ▼ 1% |
| 上海港 平均待ち時間 | 32.3 時間 | ▼ 緩和 |
| ロッテルダム港 平均待ち時間 | 25.0 時間 | ▼ 緩和 |
| 来週のブランクセーリング | 2 便 | 継続 |
数値は Drewry の世界コンテナ指数(WCI)の8月20日週の評価で、いずれも40フィートコンテナのスポット運賃である。地中海向けはスエズ復帰の影響を最も受けており、上海 → ジェノヴァは前週比 ▼2%。北欧州向けも軟調で、上海 → ロッテルダムは ▼1% となった。日本発の欧州向け運賃はこの指数とは別建てだが、東西基幹航路の需給を映す指標としては参考になる(日本発ロッテルダム航路)。港側では上海・ロッテルダムとも平均待ち時間が緩和し、ピークは越えたものの依然として高い水準にある。ブランクセーリングは来週2便が予定されており、船社による需給調整は続いている。
スエズ復帰は日本発の輸出に何をもたらすか?
いちばん大きいのは、船腹の置き場所が変わることである。これまで喜望峰回りの長い航海で吸収されていた船腹がスエズ経由に戻ると、同じ隻数でも回転が速くなり、実質的な供給が増える。運賃が3週続けて下がっているのはこの構図の反映で、輸出コストという意味では追い風といえる。裏返せば、アジア〜欧州へ船腹が吸い戻される分、喜望峰経由で運ばれてきた方面ではスペースの確保が読みにくくなりうるということでもある。復帰がどこまで進むかは船社ごとにばらつきがあるため、港ごとの標準的な所要日数は航路一覧で押さえたうえで、実際のスケジュールは都度確認するのが安全である。西アフリカのように喜望峰経由が前提だった方面(日本発アパパ航路など)は、運賃よりもスペースと日程の側に注意を向けたい。
船社別の動き
MSC動きあり
8月24日、アジア〜欧州の4サービス(Tiger / Jade / Albatros / Himalaya)の往復航を正式にスエズ経由へ切り替えた。今月は計7隻がスエズを通航し、うち数隻は AIS を切って(go dark)通過している。一方8月26日には、ノヴォロシースクへ向かっていた自社船「MSC ULSAN III」がドローン攻撃を受けたことを受けて、黒海・ノヴォロシースク発着の新規ブッキングを即時停止した。荷主にはロシア現地代理店経由で代替を案内している。M&A にも積極姿勢を見せており、既存出資先の100%取得を含む複数案件を早期に決着させたい構えである。
Maersk動きあり
8月22日、自社最大級のコンテナ船2隻が揃ってスエズ運河を通航した。Gemini 協調の AE19(アジア〜地中海)はスエズ経由を恒久化し、ジェッダ寄港を追加している。8月13日には Q2 決算とあわせて2026年通期ガイダンスを上方修正し、世界のコンテナ荷動きを通期で約 +4% と想定した。アジア中心の底堅さとスポット運賃の上昇を理由に挙げている。サーチャージ面では、インド亜大陸発・北欧州/地中海向けの ECS(緊急コンティンジェンシー・サーチャージ)を改定した。8月12日にはケニアで Viaservice と提携し、現地顧客向けのコンテナ管理を効率化すると発表している。
CMA CGM動きあり
西アフリカ向けリーファーに 100ユーロ/TEU のピークシーズンサーチャージ(PSS)を9月1日発効で設定した。北欧州・バルト・スカンジナビア・西地中海・アドリア発の冷凍貨物が対象である。8月25日には、ガーナ・テマ港向けリーファーに港湾混雑割増を設定した。同港リーファーヤードの混雑が理由である。8月24日からはアントワープ・ゼーブルージュ・ロッテルダム経由の内陸輸送に Inland Emergency Fee を導入した(輸入は8月24日の揚地基準、輸出は9月1日の積地基準)。8月5日には MyCS(My Customer Service)上で B/L リリースの申請・追跡が可能になっている。2026年は船腹過剰と需要の弱さで厳しい年になると警告する一方、上期は +235,500TEU(+5.7%)とトップ10で最速の船隊拡大を続けている。
COSCO注視
8月28日にグループ4社が同日で中間決算の取締役会を開く。Holdings・Ports・Development・International が2026年上期(1〜6月)の未監査決算を承認する予定で、Ports は中間配当の可否もあわせて審議する。それ以外に今週の目立った発表はない。数字は8月28日に出るため、内容は次号で確認する。
Hapag-Lloyd注視
ZIM 買収(1株 35.00ドル・総額約42億ドル)が最終局面に入った。各国独禁当局への届出をすべて完了し、一部では承認を取得している。年内クロージングを目標としており、完了すれば世界5位・400隻超・300万TEU超・年間取扱1,800万TEU超となる。年間3〜5億ドルのシナジーを見込む。8月13日発表の Q2 決算は売上58億ドル(前四半期比 +19%)と回復し、通期グループEBIT見通しを1〜11億ドルへ引き上げた一方、上期は1億5,190万ユーロの純損失を計上した(前年同期は黒字)。ターミナル投資では、ロッテルダムの APM Terminals Maasvlakte II に25%出資する計画で、長期の取扱量・収益の下支えを狙う。
ONE動きあり
通期利益見通しを3億ドルから9億ドルへ大幅に上方修正した。燃料コスト上昇と中東情勢による混乱を、荷動きの回復と運賃上昇が上回ったと説明している。8月4日発表の FY2026 第1四半期(4〜6月)決算は、売上45億3,900万ドル、純利益3,100万ドル。8月8日にはインド〜北米東岸の新サービス INE を開始した(ナバシェバ〜ムンドラ〜サラーラ〜ニューヨーク〜ノーフォーク〜サバンナ〜チャールストン〜ナバシェバ)。10月からはデンマーク・シェラン島のコンテナ取扱をカルンボー港へ移管する。
Evergreen動きなし
今週分として確認できる新規リリースはなく、運賃・サービス面では動きなし。公式の Notices & News にも対象期間の主要発表は見当たらない。継続している論点としては、4月時点で中東情勢による燃料コスト上昇が配船計画と第4四半期の需要見通しを不透明にすると表明していること、および米FMCによるディテンション料金の「不当」認定を巡る訴訟で敗訴していること(コロンビア特別区巡回控訴裁)が挙げられる。
HMM動きあり
船隊戦略を転換した。2030年のコンテナ船腹目標を155万TEUから147万TEUへ引き下げる一方、隻数は130隻から166隻へ増やす(=小型化・多頻度化)。13,000TEU級10隻超の新造を保留し、Suezmax・石油タンカー・VLGC・LNG船などエネルギー輸送へ資源を振り向ける。あわせて東アフリカサービスを開始した。上期決算は売上6兆1,210億ウォン、純利益7,650億ウォン、営業利益率10.2%。Q2 は増益だが、上期の純利益は前年同期比 -37% となった。第3四半期については、米国の関税・港湾混雑・地政学リスクで不透明感が増すとの見方を示している。
Yang Ming動きあり
8月中旬、1〜6月期の純利益 71億7,000万台湾ドル を公表した。株価は8月18日時点で56.10台湾ドル(+2.56%)。7月にはコンテナ11,850本を3,950〜4,050万ドルで取得しており、機材の積み増しを継続している。HD 現代重工に発注済みの LNG 二元燃料15,500TEU型5隻は、2026年から順次竣工する。
ZIM注視
8月10日、Hapag-Lloyd による買収がブラジル競争当局(CADE)へ届出済みとなった。複数法域での審査が並行して進んでいる。買収は2026年2月16日に合意し、4月30日の臨時株主総会で承認済み。クロージングは第4四半期の予定で、イスラエル政府の承認が条件のひとつとなっている。ZIM のイスラエル関連事業の一部は、新会社「New ZIM」が承継する。
Wan Hai(参考・トップ10圏外)動きあり
新造船8隻を追加発注した(黄埔文冲に6,000TEU型4隻、上海外高橋に9,200TEU型2隻ほか、いずれも LNG 対応レディ)。受注残は50隻・約50万TEUに膨らんでいる。四半期利益は前年同期比で大幅な増益となっており、太平洋航路の年間契約運賃は +14% を目標に掲げる。一方で定時到着率は低位にとどまり、スケジュール信頼性は引き続き課題である。
荷主・フォワーダー向けの実務ポイント
- 運賃の下落は追い風だが、スペースの読みは難しくなる。スエズ復帰でアジア〜欧州へ船腹が吸い戻されると、喜望峰経由で運ばれてきた方面ではスペース確保が読みにくくなりうる。9月以降のブッキングは早めに押さえ、カットオフから逆算した日程で動きたい(ブッキングの流れ/ETD・ETA・カットオフの読み方)。
- 西アフリカ向けの割増は、現時点ではリーファー限定である。今週 CMA CGM が設定した2件(西アフリカ向けPSS、テマ港向け港湾混雑割増)はいずれも冷凍貨物が対象で、ドライ貨物への直接の課金ではない。ただしリーファーヤードの混雑は港全体の作業を圧迫するため、日本発テマ航路をはじめ西アフリカ方面の ETA 前提は保守的に置きたい。割増がドライへ広がらないかは、見積の有効期限と正式タリフで都度確認するのが安全である(海上運賃の内訳と付帯費用)。
- 港の混雑はフリータイム超過に直結する。本船の遅延でも荷揚げ後の滞留でも、超過保管料・機器留置料は同じように積み上がる。起算日の定義と延長交渉の余地は積み前に固めておきたい(デマレージとディテンションの違い)。
- 東アフリカ向けは照会先が増えている。HMM が東アフリカサービスを開始したことで、モンバサ・ダルエスサラーム向けは複数船社でスペースと運賃を比較しやすい局面になっている。
- 船隊の「小型化・多頻度化」は中小ロットに追い風。大手が大型船の追加発注を絞りつつ隻数を増やす方向へ動いているのは、多仕向地・中小ロットの荷主にとって中期的にプラスに働く。便数が増えれば、1便を逃したときの代替も取りやすくなる。
- M&A の進行中は見積の有効期限に注意したい。Hapag-Lloyd による ZIM 買収は年内クロージングを目標とする段階に入っている。統合後のサービス整理次第では、地中海・北アフリカ方面を含めてサービス網や料金体系が変わりうる。クロージング前後は長めの有効期限を前提にしないほうがよい。
- スペースが読みにくい局面では、機材の押さえ方も選択肢になる。船腹が逼迫したときにスペースと機材の両方で詰まらないよう、自社所有コンテナの活用も検討に値する(SOCコンテナ/SOCとCOCの違い/コンテナ不足への備え)。
- 黒海・ロシア向けを扱うならブッキング可否と保険を先に確認する。MSC が新規ブッキングを停止したことで、この方面は船社ごとに受け入れ姿勢が割れる可能性がある。戦争リスク保険料の動きとあわせて、引き合いの段階で押さえておきたい。
来週の注目
- 8/28COSCO グループ4社(Holdings・Ports・Development・International)の上期決算。Ports の中間配当の有無もあわせて確認したい。
- 9/1CMA CGM の西アフリカ向けリーファー PSS(100ユーロ/TEU)が発効。ドライ貨物へ拡大しないか、料率表の改訂が焦点。
- 9/1CMA CGM の Inland Emergency Fee が輸出分(積地基準)で発効。アントワープ・ゼーブルージュ・ロッテルダム経由の内陸輸送が対象。
- 継続MSC・Maersk 以外の船社によるスエズ復帰宣言。Ocean Alliance / Premier Alliance の追随ペースが運賃を左右する。
- 継続Hapag-Lloyd × ZIM の各国承認状況。年内クロージングの可否と、サービス再編の初報が焦点。
- 継続黒海・ロシア向けに対する他船社の対応。MSC に続く停止表明が出れば、地中海の船腹配置にも影響する。
出典
- DCN — World Container Index(2026年8月20日週)
- gCaptain — 運賃が3週連続の下落
- MSC Newsroom
- Insurance Journal — 黒海サービスの停止
- The Loadstar — MSC がスエズ経由サービスを追加
- The Loadstar — MSC 7隻が AIS を切ってスエズを通航
- Maersk — 2026年通期ガイダンスの更新
- Maersk — Asia Pacific market update
- Container News — CMA CGM の新規サーチャージ
- Baird Maritime — CMA CGM の2026年見通し
- COSCO SHIPPING Ports — Press releases
- TipRanks — COSCO SHIPPING Ports の8月取締役会
- Hapag-Lloyd — Press releases
- Investing.com — Hapag-Lloyd の2026年Q2決算
- ZIM — 買収に関する FAQ
- MLex — Hapag-Lloyd/ZIM のブラジル CADE への届出
- WorldCargo News — ONE の通期見通し上方修正
- Dredgewire — ONE の FY2026 第1四半期決算
- Port Technology — ONE の INE サービス
- Evergreen Line — Notices & News
- WorldCargo News — HMM の上期決算
- Maritime Gateway — HMM の船隊戦略
- Reuters — Yang Ming の1〜6月期純利益
- Container News — Wan Hai の新造船発注
- The Loadstar — Wan Hai、太平洋航路の年間契約運賃 +14% を目標
- SAFETY4SEA — Alphaliner の2026年船腹量ランキング
本記事は、各社の公表資料および報道をもとに OCEAN FREIGHT JAPAN 編集部がまとめたものです(対象期間:2026年8月20日〜8月27日)。運賃・サーチャージの水準や適用条件は発表後に変更される場合があり、発地・貨物・契約条件によって実際の適用と異なることがあります。実務での適用可否は、必ず各船社の正式タリフおよび見積でご確認ください。